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恒川光太郎作品にはまる

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竜が最後に帰る場所 恒川光太郎

 名前を知っていても、作品を読んだことのない作家はたくさんいる。
 特に嫌いというわけではなくて、気にはなるけど優先順位が低いとか、あまりピンと来ないとか、勧めてくれる人が周囲にいない、とかほとんど消極的な理由だ。
 私のために書かれたような作品が埋もれている可能性はきわめて高いが、人生はそれなりに長いがすべての本を読めるわけもなく、仕方がないとあきらめるしかない。
 だが、時々何かの拍子に出会ってしまって、なんでこれまで読んでなかったんだろう、と歯がみして、作品を一気読みするはめになる。
 最近、そんな作家に出会った。恒川光太郎氏である。
 2005年に『夜市』でホラー大賞を受賞してデビュー。すでに10年以上の実績がある。
 ご本人の情報と作品一覧は、wikiを参照のこと。

 ホラーというより幻想小説の書き手で、現実と地続き、というか背中合わせに存在している異世界を描くのが抜群にうまい。
 また、独自の物語世界を持っていて、読み手の予想・期待を微妙にはずしてくる展開が心地よい。
 作品を半ば以上読んでハタと気付くと、いつのまにか予想もしなかったところに立っていた自分に気付く。振り返ると、ここまで来た道筋は霧の中に隠れ、なんでこんなところに来ちゃったんだろう、ととまどってしまう。
 そして訪れるラスト。時には人を食ったような、これでいいの?的な落ちもあるが、静かでせつなく心地よい読後感に包まれる。
 すっかりはまってしまった。

 単行本版『竜が最後に変える場所』のカバーイラストに心引かれたのが作品を読み出したきっかけ。
 この文章のトップに置いてある画像ですね。
 文庫版も悪くないが、このタイトルにあっているのかあっていないのかよくわからない感じがいいのだ。読了後に意味がわかるタイプのイラストです。

 twitterでとばしていた感想を、読書順に並べておく。

 『スタープレイヤー』読了。異世界転生ものだけれど、一癖ある世界設定、ほわっとした語り口、そしてほどよい毒。気に入りました。この方の作品、初めて読んだけれど、好きかもしれない。

竜が最後に帰る場所』読了。短編集。とてもよい。『風を放つ』『迷走のオルネラ』『夜行の冬』『鸚鵡幻想曲』『ゴロンド』を収録。みなよいが『鸚鵡』の先の読めない展開、『ゴロンド』の柔らかい視点が印象的。『夜行の冬』の闇も好き。とても映像的な作品ばかり。好きだ。(追記 下記写真は文庫版)

金色の獣、彼方に向かう』読了。とてもよい短編集。『異神千夜』『風天孔参り』『森の神、夢に還る』『金色の獣、彼方に向かう』の4編。どれもよいが『風孔』『金色』が特に好き。読後の美しくも、募る寂寥感。自分一人取り残されてしまったような。他の作品も読んでみたい。いや読む。

金色機械』読了。戦国時代を舞台に、神として崇められている機械人間をめぐる長編。そこからイメージする活劇的な内容とはかけ離れた。夢の中にいるような色合いと、意外性にあふれている。意外性と行っても「えーっ?」ではなく、不安定な椅子の上に案内されたような感覚。好きだ。

雷の季節の終わりに』読了。「穏」という現世と別の次元で重なり合っている町と現代社会の関わりの物語。ユートピアと反ユートピアの間で揺れ動いている不安定な「穏」の描写がよい。それが世界をより際立たせる。物語の展開は、なんでこうなるの的。でも、それが恒川流幻想譚。好きだ。

南の子どもが夜いくところ』読了。南海に浮かぶトロンバス島を舞台にした連作短編集。「穏」も出てきて恒川ワールド全開。登場人物はみんな夢を見ていて、目覚めた先の島自体が夢。だから、話が落ちているようで落ちていない、解決しているようで解決してない。そんな作品集だ。
収録作品は、表題作、『紫焰樹の島』『十字路のピンクの廟』『雲の眠る海』『蛸釣師』『まどろみのティユルさん』『夜の果樹園』。象徴的な表題作と『夜の果樹園』が特に好き。『雲の眠る海』は小松左京の『岬にて』を思い出させて印象深い。全編そんな感じかも。

草祭』読了。この作品集もいい。『けものはら』『屋根猩々』『くさのゆめがたり』『天下の宿』『朝の朧町』の5編。舞台となる土地は同じだが、時代も主人公も異なるゆるい連作集。『屋根猩々』のユーモアあふれる語り口、『朝の朧町』のなつかしく美しい風景。好きだ。

夜市』読了。ホラー大賞に応募作品でデビュー作の『夜市』と『風の古道』の2編を収録。『夜市』は気合いを入れて書いたんだと思う。ファンタジーホラーだと思い込んで読んでいたので、後半の展開にはほんと驚いた。今の作風に近いのは『古道』。古道の風景がまた美しく懐かしい。好きだ。

秋の牢獄』読了。『秋の牢獄』『神家没落』『幻は夜に成長する』の3作品を収録。著者の作品の方向性が凝縮していると思う。『秋』は現実の裏側によりそう異世界譚、『神家』はブラックユーモア、『幻』の人の内面に眠る異形を描くシリアスホラー。その後の作品に繋がっていく道が見える。

 とりあえずここまで。
 他の本を読みながら、2カ月弱の間にここまで追っかけたのだ。
 はずれは一作もなかった。 
 なんで、これまで手に取りもしなかったんだろう。縁て不思議ですね。

 『ヘブンメーカー スタープレイヤー2』と『月夜の島渡り』は未読だけ、近く制覇するつもりである。
 

  • この記事を書いた人
永才 力丸

永才 力丸(えいさい・りきまる)

ライター、編集者。音楽雑誌、パソコン雑誌、ゲーム攻略本の企画編集を経て、直近は、ゲームシナリオ、イベント企画構成も行う。自称、日本一、乙女ゲームに造詣が深いおやじ。

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