横浜 歴史

神奈川県立博物館『石展』?に行ってきた。

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石展 神奈川県立歴史博物館
 横浜三塔「キング」「クイーン」「ジャック」にあやかって「エースのドーム」と名乗っている横浜県立博物館。
 そこで、2月6日から3月27日まで開催されている特別展『石展~かながわの歴史を彩った石の文化』を見てきた。
 サブタイトル無しに『石展』というタイトルを見たとき感じた「なにそれ?」という気分がひっかかっていた。
 私と同じように、気にはなっているが、中身が想像できなくて、二の足を踏んでいる人がいるかもしれない。内容を簡単にまとめてみる。

岩石から石材へ

 まず最初のゾーン、神奈川県の大地の成り立ちから。
 億年前の世界からスタートする。
 始めて知ったのだが、神奈川の南側の地層は「四万十帯」といって北側の地層とは性格が異なるそうである。四万十帯を地図で見ると、伊豆東海、中部、紀伊半島、四国の南側に広がっていて、まさしく南側から動いて合体したように見える。
 神奈川の大部分が海の底にあった頃、ユーラシアプレートが北上。伊豆半島と丹沢がぶつかり、丹沢がググっと盛り上がり、今に近い形になる。ついでに海の底だった部分も持ち上がり、大地が生まれた。厚木や海老名の古い地層からは、貝殻が多数発見されている。
 さらに、箱根の火山や丹沢の変形にともなって貫入してきたマグマの熱で岩が様々に変成する。だから、神奈川から産出される石はたいへん多彩なのだという。
 箱根で黒曜石が産出していたことも今回初めて知った。
 次に「石材」の展示。作られた年代が古いものから新しいものに順に並ぶ。
 なるほどと思ったのは、石を見つけて分析するまでは「地質学」の範疇だが、利用しようと思ったとたん「石材」になるということ。
 「岩」が「材」に変わるのだ。なかなか面白い。
 神奈川は多彩な石材を産出するため、石丁場(石切場)が各地にあったが、石材の需要減にともなって次々と閉鎖され、現在でも切り出しが行われているのは小松石と根府川石だけだそうだ。

石塔の普及と奈良から来た石工集団

 次に先史時代の石器を紹介するコーナー。続いて中世の石塔文化の紹介へ。
 神奈川にある五輪塔や層塔、宝篋印塔(ほうちゅういんとう)が、実物とパネルでずらりと展示されている。
 興味深かったのは、この文化を神奈川にもたらしたのは一人の僧侶だった、という事実。
 それは、鎌倉時代の真言律宗の僧侶、忍性(にんしょう)さん。あちこちで精力的に布教と救済を行った人らしい。
 彼は、奈良からまずは筑波にやってきて、布教活動を行った。この時、奈良から石工職人を連れてきたのが、板東の人々が石塔文化に触れるきっかけとなった。
 その後、鎌倉北条家に請われて鎌倉に入り、神奈川の地に石塔文化がもたらされる。
 宗教だけでなく新しい事物の普及には、人々が驚くような、耳目を集められるような、新しいアイテムや価値観が強い力になる。
 忍性さんはそのあたりのことをよく理解していたのだろう。
 石塔の次は、秀吉が小田原を攻める時に築いた「石垣山城」。40日あまりで完成したと言われる「一夜城」だ。
 関東で始めて作られた総石垣の城。秀吉は西の石工を小田原まで連れてきて工事にあたらせたが、使われた石は早川や足柄から切り出された石だった。
 続いて、石工の仕事内容の解説。
 神奈川の石は、石垣山城や小田原城はもちろん、江戸城まで運ばれて石垣に使われた。
 石の探索、切り出し、検品、港までの運搬、船積みまでを詳細な絵にまとめた「石切図屏風」からは、その熱狂ぶりが見て取れる。
 小田原藩主大久保家の家紋が、幕や旗に書き込まれているところを見ると、藩の面目をかけた一大事業だったのだろう。

悠久の時の流れを感じられる良企画

 そして近代。
 明治期になって石材業が起こり、様々な近代建築に神奈川の石が使われていく。海軍や造船所のドックにも使われ、みなとみらいのランドマークタワーにある「ドッグヤードガーデン」の石も神奈川県産だ。
 さらに、明治期の有名な建築物「横浜正金銀行本店(県立博物館のある建物)」「日本銀行本店」「東宮御所」に、神奈川の白丁場石が使われていた。東宮御所に使われていることは、今回の展示会のための資料調査で明らかになった事実らしい(一般には見ることのできない中庭の方らしいが)。白丁場石は、色が白く加工しやすく安かったので、大理石と一緒に使われていたという。
 最後は、石にまつわる民間信仰や習俗を紹介。横須賀にある子生石などが紹介されている。

 ざっと駆け足で、私が気になったポイントのみ紹介したが、「石」だけをテーマにここまできっちりした展示会ができるとは思わなかった。
 かなり見所が多くて、2時間半があっという間に過ぎた。
 神奈川の大地のから掘り出された石が、何万年、何十万年もの長きに渡る歴史を語り合っていて、私たちはそれを聞いている。
 悠久の時の流れに触れたような、そんな気がする良い展示会だった。
 気になる方はぜひ。

特別展『石展~かながわの歴史を彩った石の文化』
開催期間:2月6日~3月27日
開館時間:午前9時30分~午後5時
     (入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(3月21日は開館)
会 場: 特別展示室・コレクション展示室
観覧料:大人…900円(20名以上の団体は100円引)
    20歳未満・学生…600円(20名以上の団体は100円引)
    65歳以上・高校生…100円(団体の場合も同一料金)
    ※中学生以下・障がい者手帳をお持ちの方は無料
    ※3月21日(春分の日)は無料開館日
主 催:
神奈川県立歴史博物館
神奈川県立生命の星・地球博物館

  • この記事を書いた人
永才 力丸

永才 力丸(えいさい・りきまる)

ライター、編集者。音楽雑誌、パソコン雑誌、ゲーム攻略本の企画編集を経て、直近は、ゲームシナリオ、イベント企画構成も行う。自称、日本一、乙女ゲームに造詣が深いおやじ。

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