社会・経済

葬儀社広告の読み方(1) 葬儀社が自己アピールを始めた理由

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 広告制作の現場で、葬祭業の販促・広報を約3年間お手伝いさせていただいた。門外漢が広告を作っている間に身につけた知識をもとに、葬祭広告の読み方について何回かにわけてまとめてみたいと思う(あくまでも広告とそれにまつまる解説です。宗教や儀式の是非を問う記事ではありません)。

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まずはネットで検索

 ネットで、居住している地域名に葬儀を付けた気ワードで検索してみてほしい。
 例えば、「札幌 葬儀」「八王子 葬儀」というように、間にスペースを入れる。
 すると、たくさんの社名や斎場の名前が並ぶはずだ。葬儀社を紹介する業者のサイトも出て来る。
 どれでもいいから、クリックしてみよう。
 上位に並ぶサイトは、きれいなレイアウトで、料金が安いこと、料金が明朗であること、施設が魅力的であること、「想い」を込めた葬儀を行えることなど、しっかりとアピールしてくるはずだ。
 ただ、思い返してほしい。以前の葬儀社は、こんなに自己アピールに長けていただろうか?
 もちろん、野立て看板、時刻表の広告スペース、チラシなどで社名や運営している斎場名を広告宣伝していた。だが、基本的な姿勢は裏方、縁の下の力持ち、黒子的なイメージだったはずだ。色のイメージも、緑色、茶色等がメイン。
 現代は、赤系の明るい色やパステルカラーも使う。大きなフォントで、セールスポイントをアピールする。
「どこよりも安くて安心」という、一般の商店でも使うようなコピーが躍る。
 いつから、葬儀社はこんなに自己アピールをするようになったのか?
 最初の回は、まずはそこから始めることとしよう。

口べたではいられない

 私が、少しずつ業界に関わりだした、今から5年ほど前、2012年頃の葬儀社のWEBサイトはお寒いものだった。
 もちろん、小規模葬儀社は別として、ほとんどの葬儀社はすでにWEBサイトを持っていた。
 ただ、更新がほとんど行われず放置気味だったし、数年前のサイトをそのまま使っているので、デザイン面では古くさいものも多かった。高解像度のPCで見ると文字や写真が小さく表示されて見にくいものもあった。
 毎日のように、葬儀をあわただしく行っている現場にとって、WEBサイトの宣伝が必要だとという実感はあまりなかったろう。
 特に、独自の斎場を持つ葬儀社は、施設というランドマークがある上に、野立て広告や駅やバスでの交通広告、新聞投げ込みチラシなど施設中心の宣伝で十分アピールできているのだから、WEBサイトで客を集める必要性がそもそも感じられなかったのだと思う。看板と同じで、とにかく出して置けばよいもの、という認識だったのだ。
 更新するための情報をもらおうと連絡すると、そっちで適当にやってくれ、とかよく言われたもので。もちろん、適当にはできません。
 こんな状況が、2012年頃から徐々に変わっていったように思う。
 もちろん、スマホの普及などに代表されるインターネットの一般化で、50代、60代、葬儀と関わることが増える年齢層の人々がPCで情報を集めるようになっていたことが背景にはある。葬儀社を選ぶ際に、地縁血縁だけでなく、ネットで情報を集める層が生まれてきたわけで、これに対応するのは企業として当然だ。
 だが、それだけが理由ではない。
 一口で言えば、黒船来航。葬儀業界の外からの圧力が、変化をもたらした。黙っていてはいられない状況が生まれたのだ。

2つの大きな流れとは

 私は、大きな流れが2つあったと思っている。

 ひとつはネット業界からやってきた。
 ネットを使って全国から幅広く受注を集めるネットエージェント系と呼ばれる企業が存在感を増してきた。具体的に名前を出すと「小さなお葬式」。彼らのビジネスモデルは、ネットで集客し、地元の契約企業に施行を委託する、というもの。葬儀の紹介業だ。
 彼らが巧みだったのは、ネットで集客する、という仕組みを打ち出す時に、「不明朗な葬儀費用にメスを入れる」というコンセプトを前面に打ち出してきたこと。以前から、葬儀費用はよくわからない、と言われ続けてきた。一方、ネットエージェント系は、全国一律料金で、これ以上は一切かからない。とてもわかりやすい。これに、ネット時代の客は反応した。
 最初は、ネットで葬儀を頼む人など少数、と無視気味だった既存の葬儀社も、急激に増す「小さなお葬式」の存在感を認めないわけにはいかなくなっていた。

 もう一つは、小規模の葬儀の一つの形として「直葬」「家族葬」が定着してきたこと。
 「直葬」は、葬儀式を行わずに火葬するという最もシンプルな形態。個人的にシンプル過ぎる気もするが、増えているのは事実。
 「家族葬」は、イメージ先行で定義があいまいなのだが、親族だけで行う参列者で式を行う小規模・少人数の形式。 
 以前からあったかたちとはいえ、明確な言葉が与えられ、一般の認知度が上がったのは大きい。主にマスコミの力だ。これは実に多くの影響をもたらした。
 ネットエージェント系の台頭の下地にもなった。小規模な形式なら、価格の変動も少ない。安くて、わかりやすく、ネットには最適だった。
 既存の葬儀社にとって、参列者の減少は収益に直撃するが、お客が求めているなら対応せざるを得ない。「直葬」や「家族葬」のプランを作って、アピールする必要に迫られた。

 斎場のかたちも変化する。
 「家族葬」なら斎場も小さくて済む。100人以上の葬儀が出来るような大きな斎場での少人数葬は、さびしさがいや増す。
 大きな斎場を持つ葬儀社は、中に小部屋を作り、家族葬用の部屋を用意する。フットワークの軽い葬儀社は、1日1家族専用、と銘打って、小さな斎場を次々に立てる。コンビニやカーディーラーの跡地が使えるから、短期間で出店が可能だ。
 斎場の小規模化は、競争の激化を生み出した。
 それまで、既存の葬儀社は自分たちの商圏をもっていた。もちろん、保証されているわけではない。しかし、斎場を作るには地元の反対等もあるし、敷地もそれ相応の広さが必要だ。そう簡単に新規参入できない環境があったから、結果的に安定していた。
 だが、コンビニや郊外型店舗の跡地で出店できるとなると、話が変わる。周辺やまったく別の地域で成功体験を積んできた葬儀社が、いきなり自分の商圏だと思っていたところに、くさびを打ち込んでくるようになった。

 こうして、葬儀業界に攻める側と守る側が生まれた。
 こうなったからには、黒子に徹して黙していることはできない。みな前面に出て、自己アピールを熱心に始めざるを得なくなった。
 要は「競争の激化」だ。利用者にとっては、よい状況になったと言える。
 以前と比べると、情報も多く入手できるようになったし、サービスも多彩になったのは確実だと思う。


 誤解を恐れずかなり強引にまとめてしまったが、この業界状況を頭に入れておいてほしい。
 これから説明していく、葬儀社の広告がよりわかりやすくなるはずだ。
 具体的な見方の説明は、次回以降で。
 まずは、葬儀業界に大きなインパクトをもたらした「ネットエージェント系」あたりから入りたいと考えている。
 不定期の連載になると思うので、よろしくお願いします。

 アイキャッチ写真:(c)2015, リキマルラボ ※スタッフが撮影

  • この記事を書いた人
善木 克典

yoshiki

何でも屋。エレクトロニクス専門誌、パソコン雑誌編集者を経て、ゲームメーカーで企画・宣伝に従事。自称小粒な経営コンサルタント。

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