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【これ読み本】鉄板作家、佐藤亜紀最新刊『吸血鬼』と謎めいたあらすじの『アメリカ最後の実験』

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 今日、本屋で見つけた「これ読みたい!」と思った本。2016/2/3版。
 有隣堂(横浜ダイヤモンド地下街店)にて

吸血鬼 佐藤亜紀

■吸血鬼 佐藤亜紀(講談社)
 佐藤亜紀の新作発見!
 私にとっては、寡作だが一冊たりともはずれのない鉄板作家である。
 日本で刊行されるすべての小説を読んでいるわけではないが、佐藤亜紀の作品は彼女しか書けない、ワンアンドオンリーの作品だと思う。
 なぜ、そう言い切れるのか。評論家ではないので、読めばわかる、と言っておく。
 楽しめるかどうかは別として、ページから立ち上がってくる、尋常ではない凄みは誰にでも伝わると思う。
 例えば、歴史上の題材が取り上げられることが多いのだが、そこを歩き回る人々、起こる出来事、そのリアルさといったらない。なぜこんな風に書けるのだろう、と読むたびに感嘆する。
 資料をよく調べているというだけでは、こんな小説にはならない。
 彼女の頭の中には、登場人物を含む全住民が暮らす地域、国全体、周辺諸国までがきっちり構築されていて、24時間、365日、現実と同じように時間が流れているのではないか。そこから特定の時間、空間を切り出して並べ替えたものが小説のかたちをとっている。そんな気さえするほどだ。
 今回の舞台は19世紀ポーランド。
 ポーランドは、18世紀に周囲の大国、ロシア帝国、プロイセン王国、オーストリアに分割されポーランド王国が消滅する。独立運動が起こるもかなわぬまま、19世紀になるとナポレオンが進出しフランスの傀儡政権を立てるが、ナポレオン戦争後は、また大国の力関係でいいように切り分けられる。
 なんという混沌の地域、時代。これは作者の得意中の得意とする舞台である。
 amazonの内容紹介を引用する。

独立蜂起の火種が燻る十九世紀のポーランド。
その田舎村に赴任する新任役人のヘルマン・ゲスラーとその美しき妻・エルザ。この土地の領主は、かつて詩人としても知られたアダム・クワルスキだった。
赴任したばかりの村で次々に起こる、村人の怪死事件――。
その凶兆を祓うべく行われる陰惨な慣習。
蹂躙される小国とその裏に蠢く人間たち。
西洋史・西洋美術に対する深い洞察と濃密な文体、詩情溢れるイメージから浮かび上がる、蹂躙される「生」と人間というおぞましきものの姿。

 「赴任した村」と「蹂躙される小国」これがキーワード。「個人」「地域」「時代」である。
 彼女の小説の最大の魅力は、個人と地域と時代が密接に繋がっているところにあると思う。
 時代のうねりが主人公をドライブし、その行動が逆に時代を浮き彫りにしていく。一地域の物語だったはずが、そこを取り巻く世界にまでつながっていく。その高揚感は、なかなか体験できない希有なものだ。
 『ミノタウロス』『天使』『雲雀』『金の仔牛』…、題材の面白さ、引きつけられるストーリー、華麗な筆致と、どれをとっても一級品だが、私にとっての佐藤亜紀体験の最大の喜びはそこにある。
 今回も神業を見せてくれるに違いない。

アメリカ最後の実験 宮内 悠介

■アメリカ最後の実験 宮内 悠介(新潮社)

 前作『エクソダス症候群』も未読なのに、新刊が出てしまった。
 『盤上の夜』『ヨハネスブルグの天使たち』で直木賞候補になった宮内 悠介の最新刊『アメリカ最後の実験』(どこか懐かしさがただようカバーデザインで親父の私は気に入っているのだが、若い読者にはちょっと地味かもしれないと思った)。
 私と作者の小説の出会いは、ハヤカワ文庫版の『ヨハネスブルグの天使たち』。おおっ、この人の作品をもっと読んでみたい、と思った。
 個人と世界の関わりをSFというツールを使って解きほぐそうとしている人なんだ、と感じたからだ。はるか昔、小松左京の作品と出会って引き込まれた時の感覚に似ていた。

■ヨハネスブルグの天使たち 宮内 悠介 (ハヤカワ文庫JA)

 今回の長編だが、タイトルも謎めいているし、あらすじを読むだけではどんな話か今一つわかりにくい。
 まずは、版元である新潮社のホームページから抜粋してみる(改行は筆者)。

失踪した音楽家の父を捜すため、西海岸の難関音楽学校を受験する脩(シュウ)。
そこで遭遇する連鎖殺人――「アメリカ最初の殺人」とは?
ピアニストの脩が体感する〈音楽の神秘〉。才能に、理想に、家族に、愛に――傷ついた者たちが荒野の果てで掴むものは――西海岸の風をまとって、音楽が響き渡る……著者新境地のサスペンス長編。

 音楽をテーマにした、サスペンスものらしい。キーワードが多すぎて絞り込めない。
 amazonの「内容(「BOOK」データベースより)」はちょっと違う(改行、赤字は筆者)。

失踪した父を探して難関音楽学院を受験する脩。
そこで遭遇する連鎖殺人。
謎の楽器“パンドラ”。
“音楽”は人をどう変えるのか。
才能に、理想に、家族に、愛に―傷ついた者たちが荒野の果てで掴むものは…?

 おっ、謎の楽器"パンドラ"!
 なんか見えてきた感じがする。このガジェットが、個人と世界をつなぐ媒体となっていくのだな。そうに違いない。
 私は、謎めいたあらすじを読むと、中身を確認したくなるたちである。がぜん気になってきているのだが、まずは『エクソダス症候群』が先だな。この永遠に続きそうな積ん読状態をなんとか解消せねば。

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  • この記事を書いた人
永才 力丸

永才 力丸(えいさい・りきまる)

ライター、編集者。音楽雑誌、パソコン雑誌、ゲーム攻略本の企画編集を経て、直近は、ゲームシナリオ、イベント企画構成も行う。自称、日本一、乙女ゲームに造詣が深いおやじ。

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